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定期評価を一切しない「ノーレイティング」を始めて2年経ちました

「ノーレイティング」を始めて2年経ったので、評価制度の目的と運用の注意点について解説します。経営者・人事・マネージャーなど評価制度に興味がある方に是非読んでいただきたいです。

【筆者紹介】
人事のなべはる。フィードフォース人事部マネージャー
フィードフォースの社員が20数名だった頃から人事全般を担当。
現在(2020年)の社員数は90名弱。

以前、下記の記事でフィードフォースの評価制度を紹介しました。多くの人に読んでいただき嬉しい限りです。

今日は上記の記事よりもさらに踏み込んでフィードフォースの評価制度を解説したいと思います。「そもそも評価制度は何のためにあるのか」「ノーレイティングをどのように運用しているのか」などを知りたい方はぜひお読みください。
※ここでは「ノーレイティング」を「定期評価しないこと」と定義づけています。

フィードフォースの評価制度概要

まずはフィードフォースの評価制度がどのようなものか、概要を紹介します。なお、ここでいう評価制度は給与を決めるための制度に限定しています。

【フィードフォースの評価制度概要】
(等級制度)
・いわゆる等級制度で給与が決まる
・ざっくり、「ジュニア」「メンバー」「シニア」「エキスパート」に等級が分かれていて、それぞれの等級で年収レンジが定められている。
・職種ごとに各等級の要件が決まっていて年収レンジとともに社内に公開されている
等級が上がる(昇級する)と給与が上がる。昇級するためには昇級審査で自身の成長と貢献を被評価者が説明する。
・昇級審査は自分のタイミングでいつでも受けられる。昇級すると翌月から昇級した等級の給与になる
(定期昇給)
・半年に1度定期昇給がある。定期昇給額は全社員一律同額であり、個別の評価は行わない
・ただし、自身の属する等級で規定されている年収レンジの上限に達している場合はそれ以上定期昇給しない

以上が評価制度の概要です。
大きな特徴としては、「昇級審査はいつでも受けられて、昇級すれば翌月から給与に反映される」「定期評価はせずに全員が一律で昇給」の2点です。

この評価制度のポイントを「なんのための評価制度か」「社員にとって分かりやすく」「納得感のある定期評価の限界」の3つの視点で紹介します。

評価制度はなんのため?

前提として、評価制度はなんのために存在するのか?を定義することが重要です。これがないと、制度がうまくいっている・いっていないの判断材料を持つことができません。
弊社の場合は下記のとおり定義しています(社内情報共有ツールの esa に記載されています)。

【フィードフォースの評価制度の目的】
・給与の決定プロセスを透明化し、何をすれば給与を上げることができるのかを明確にする
・そのうえで、個人の報酬を上げるための各メンバーの取組みと、サービスの向上・会社の売上/利益向上が連動している設計にする
・こうすることで、個人の自律的な成長と収入アップと会社の成長のベクトルを同じにする

個人の自律的成長と会社の成長のベクトルを一致させることを目的にしており、逆にいえばそれ以外のことは目的としていません。
それ以外のことというのは例えば、「社員をランク付けすること」「社員の貢献度合いに順番をつけること」「厳密な意味で公平公正な給与額にすること」などで、これらを重視した設計にはしていません。

すべてにおいて完ぺきな制度は存在しないので、悩むときがあったらここで定めた目標が実現するか?に立ち返って制度設計を考えます。

社員にとってとにかく分かりやすく

制度の目的である社員の成長と会社の成長のベクトルを合わせ、社員が自律的に成長していくためには、制度が分かりやすいことが必須条件でした。
理想は「どうすれば自分の給料が上がるか?」の問いに誰もが一言で答えられることです。どうすれば給料が上がるかが社員にとって分かりづらいと、「給料を上げるために●●するぞ」という自律的なアクションが生まれません。
なので、「昇級すれば給料が上がる」「昇級するには等級審査を受ける」というシンプルで分かりやすい制度設計にしています。

この「昇級すれば給料が上がる」というシンプルな設計が、先に述べた制度の目的である「個人の自律的な成長と収入アップ・会社の成長と利益のベクトルを同じにする」を実現する助けになっています。

【社員の視点】
自分がいまどの等級にいるか・次の等級に進むためには何が不足しているかを認識し、ギャップを埋めることで成長する
成長の結果、等級審査を受けて認められれば昇級して給与が増える。審査で認められなかったとしてもどこが不足しているかのフィードバックを受けることで次の成長につながる
【会社の視点】
高い等級の社員が増えれば会社としてやれることが増え、結果的に売上利益が向上する(ように等級を設計する)

社員が自律的に成長し、その結果として会社の売上利益が向上する仕組みを、シンプルな等級制度を媒介にして後押ししているのです。

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納得感のある定期評価の限界

多くの企業で行われている一定期間ごとの定期評価をフィードフォースでは行っていません。半年に1度、全員が一律で同じ金額昇給します(ただし、自身の属する等級の給与レンジ以上は定期昇給しません)。

会社に大きく貢献した社員もそうでない社員も同じ昇給額というのは、賛否両論あるかもしれません。会社に貢献するほど昇給額が多くなるほうがやる気が出るとふつうなら考えるでしょうから。

しかし、社員一人ひとりが「どれくらい会社に貢献したか」を定期的に納得感のある評価を行うのは限界があります。
定期評価で社員の貢献度合いを評価するのが難しい理由は下記のとおりです。

【定期評価で納得感を持たせるのが難しい理由】
・環境の変化が激しく、期初に立てた目標が評価するタイミングでは変更されている可能性が高い。目標が変わるたびに評価基準もチューニングするのはコストが高い
・定めた評価期間では適切に評価しづらい人や職種がある。例えば、10ヵ月で一区切りの仕事の6ヵ月時点での評価をどうするか?など難しい
昇給原資が有限な以上、相対評価にせざるをえない。ある社員がA期間とB期間で同じ程度の貢献をしたとしても、他の社員の貢献度合いによって評価が良くなったり悪くなったりして納得感を得づらい
・相対評価だと、異なる職種の貢献度合いを比較する必要があり難易度が高い

社員にとって納得感のある定期評価をするためには上記の問題をクリアする必要があります。これらの問題をクリアするには、評価する側もされる側もかなりのコストをかけなければなりませんし、いくらコストをかけても完ぺきにやり切るのは無理かもしれません。
定期評価で納得感を醸成できるのは、「環境の変化が乏しい」「一定期間で明確な成果が出る」などの特殊な条件を満たしていないと難しいように思います。

ここで先に挙げた評価制度の目的に立ち返ります。
評価制度の目的は「会社の成長と個人の自律的な成長のベクトルを一致させる」ことであって、社員をランクづけしたり厳密な意味で公平な給与額にしたいわけではありませんでした。

そこで、定期昇給額は全員一律同額と割り切ることにしました。
一定期間で貢献してもしなくても昇給額が同じであることに不満に感じる社員もいるかもしれませんが、少なくとも「公平(あるいは平等)」かつ「明朗」な制度ではあると思います。
社員が成長・貢献した場合は先に述べた「昇級」することで給与を上げることができるので、半年に1度と言わず自身のタイミングで昇級審査を受けて給与を上げてもらうことになります。

余談ですが、グローバルでみると定期評価を行わないノーレイティングはここ数年のトレンドのようです。ハーバードビジネスレビューの「人材育成」特集では、「年度末の人事査定はもういらない」と「年度末の人事査定はいまだ有効だ」の論文が同時に掲載されており、プロレス的な議論がされています。

以上が、フィードフォースの評価制度の概略と基本的な考えです。以下では、この制度を運用する際のポイントと注意点について記します。

運用のポイント①:OKRと無理に連動させない

フィードフォースではパフォーマンスマネジメントのフレームワークにOKRを導入しています。
OKRはチームで高いパフォーマンスを上げるためのフレームワークであり、公平な評価を行うためのものではないので、評価制度と無理に連動させないほうがうまくいきます(フィードフォースの場合は昇級基準の参考にはしますが直接連動はさせてません)。

よく聞く話が、OKRの達成度合いが評価に直結する設計になっているので誰も高い目標を立てたがらなくなり結果としてチームのパフォーマンスが落ちてしまうというもの。
もちろん、OKRの達成度合いが評価の参考の1つになるのは間違いないのですが、直接連動させすぎると弊害が出るので注意が必要です。

運用のポイント②:マネージャーは評価者ではない

フィードフォースのマネージャーは、「メンバーの評価をする人」ではなく「メンバーの成長を支援する人」です。

マネージャーは、受け持つメンバーの現在のスキルや経験と次の等級とのギャップをどう埋めるか?をメンバーと相談しながら成長を支援します。等級審査の際には資料作りのアドバイスを行うこともあります。
等級審査ではマネージャーも審査する側なのでまったく評価しないわけではありませんが、5人いる審査メンバーのうちの1人でしかないので「評価をする人」という感覚は和らぎます。

こうしてマネージャーとメンバーが「評価する・される関係性」ではなくなったことで、マネージャーにとってもメンバーにとっても精神的な負担が大きく減り、当初の目的である「社員の成長と会社の成長のベクトルを合わせる」ことに集中することができているように思います。

運用の注意点①:マネージャーの支援が前提

この評価制度を運用するうえで注意点や課題も多くあり、現在も日々カイゼン中です。
1つ大きな注意点としては、この制度はマネージャーがメンバーを日常的に支援していることが前提になっていることです。

ふつうの会社で行われている定期評価がない分、マネージャーからメンバーへのフィードバックは日常的に行う必要がありますし、上述したメンバーへの成長支援もマネージャーに一任されています。

もしマネージャーからのこれらの支援が不足していた場合、メンバーからみると「フィードバックも成長支援もない、ただ半年に1度ちょっとずつ昇給する制度」と捉えられてしまう可能性があります(万一マネージャーからの支援がなくても自薦で等級審査を受けて昇級することはできますが)。

運用の注意点②:等級定義のメンテナンス

「昇級すると給料が上がる」というシンプルな設計が肝なので、等級の定義は非常に重要です。
フィードフォースでは、「この等級ではどういう役割・スキル・経験が求められるか」を10以上ある職種それぞれに詳細に定めています。

しかし、一度定義を定めてからも環境の変化でその職種に求められる役割が変化することも大いにあり、その都度等級の定義を見直す必要があります。
めんどうではあっても、等級定義のメンテナンスをおろそかにすると制度全体がゆらぐので重要なポイントです。

運用の注意点③:事業が成長していることが前提

昇級の審査基準は「その等級にふさわしいかどうか」の絶対評価であり、他社員と比較した相対評価ではありません。
そのため、理論上は1度に全社員が昇級することもありえるわけです。

この制度が成り立つには、社員が成長することで事業が成長し、売上利益が拡大する状態になっていることが前提です。
もし何らかの理由で、社員が成長しても事業が成長しない、あるいは事業の成長までに時間がかかりすぎる状況になってしまった場合には制度を根本から見直す必要があります。


以上、フィードフォースの評価制度についてまとめました。
制度導入から2年が経ってある程度軌道には乗ってきましたが、日々運用する中で課題も見つかっています。制度は運用が命ですので、これからもカイゼンを続け、会社の成長を後押しできる評価制度にしていきます。
最後まで読んでいただきありがとうございました!

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